■ 盗撮☆大作戦 ■

「カコム、はよ来ぃやー」
 黒田皆(ミナイ)がコソコソと手招きする。ミナイと同じ顔をした双子の妹、黒田井(カコム)が
「せやけど……」
 と躊躇し、周囲をチラチラとうかがう。
 ここは学校の中庭。
 今は昼休み終了10分前。
 二人が立っているのは、カーテンがかかっている、ひとつの窓の前であった。
 このカーテンの向こう側、つまり校内の男子更衣室には、二人の憧れの的であるNTH88の菊池怜(レイ)が、次の時間の柔道の授業のため、制服から柔道着に着替えているハズで。
「よっしゃ、時間もバッチシや」
「あかん、」
「?」
「どないしよ……マスカラ塗ってきてへんっ!」
「何言うとん? のぞき見にマスカラは要らへんやん」
 ミナイはさらっとツッコむ。
 手順はこうだ。
 1.カコムが魔法でカーテンを少し動かし
 2.ミナイが写真で菊池の上半身ヌードをパシャッと撮る
 3.二人の下僕……違った、親友である羽根田紺(コン)を脅し
 4.羽根田の家である写真屋で、タダで写真を現像してもらい
 5.彼女たちのクラスで売りさばく
 6.女子の大半が菊池ファンなのでバカ売れ→大儲け
「いやー、アタシの案最高!」
 こうでもしないと、女子高校生のお小遣いでは到底、ミシンなど買えたものではない。
 彼女たちには、制服をチーム服に改造するという、壮大な夢があったのだ。
 チーム自体、まだ発足はしていないが、チーム名は「黒羽根宇宙基地(仮名)」で、当然大変そうなリーダーの役には、二人の下僕(もう下僕決定でいいだろう)羽根田を勝手に抜擢する予定となっていた。
「いくでー、カコム」
「……ん、」
 カコムは、窓のすぐ下でしゃがみ、風の呪文を唱えようと、口を開きかける。
 すると。
「あッ……熱ーッ!」
「?! どないしたん??」
 カコムは口をおさえて、ゴロゴロと芝生の上を転がった。
「あっつー、舌が……ッ!」
 ミナイはあわててカコムに近寄り、そしてハッと気付いた。
 この窓、言霊封じのシールドがかけてあるではないか!
「やられた……。カコム、教室帰ろ」
 ミナイは悔しそうにその場を去る。カコムは口をおさえつつ、ミナイの後にすごすごついて行く。
 こうして盗撮作戦は失敗したのであった。
 しかもカーテンの向こう側では、菊池ではなく同じ宇宙基地チームに入る予定の片桐青(セイ)が着替えていた。