■ オーバーリミット003 ■
「……ッ?!! 届かない!!??」
私が大声でそう叫ぶと、私の下に居たガンシとレンルが
「は?! 届かないだって?!!」
「ウソだろ?! チョット頑張ってみてよ!!」
と大声で返してきた。
説明すると長いから、かいつまんで話すよ。ココは廃墟と化した某麻薬密売組織のアジトで、私とガンシとレンルは警察の特殊3科に勤める特殊警官。
課長が長年追っていた麻薬密売組織のアジトを見つけ、突入に踏み切ったものの、そこは既にもぬけのカラで、自動再生の音声が私たちに告げたのは『爆発まであと5分』という爆発警告。
そう、私たちがココに来ることを予想して……あるいは、3科の中に裏切り者が居て……あらかじめ爆弾をセットして、奴らはとっくに逃げていたのだ。私たちもろとも証拠を消す。なんてスタンダードな名案!!
――ってワケで、スタンダードな時限式爆発装置は、スタンダードに天井部分の鉄格子の間に取り付けられていて、
『爆発まであと2分』
「おいヌミ!! やべーぞ!!」
ガンシが叫ぶ。
「証拠はイイから逃げよぉよー!!」
レンルが嘆く。
「ウルサイっ!!! 課長に殺人チョップくらわされたくなかったら、何か棒投げて!」
――フォッ。
鉄の棒が下から飛んできた。私はその棒の先で、装置のディスプレイをコンコンと叩いた。
特に意味ナシ。
それから、その下のボタンをランダムに押す。反応ナシ。やはり、コードを切らなければダメみたいだ。
「レンル!! コード切るやつ投げて」
「装置の型番なんだかわかる?!」
私はディスプレイの上の文字を読んだ。
「簡単お手軽☆バッドマウス社の時限装置付属ディスプレイ……って型番じゃないし!!」
近頃一人ツッコミのレベルが上がっているような気がする。気のせいか?
「わかった! バッドマウス社のPP2829だろ、左から延びてるぅー…っとねー、確かどどめ色のコードを切れば止まるハズ!」
――ヒュン。
小さなコード切りハサミが弧を描いて私の右手に吸い込まれた。事件のたびに何度も思うが、レンルは物を投げるのがとても上手い。
「どどめ色??!!」
暗くてコードの色がよく判らない。むしろ、
「どどめってどんな色?!!」
「知らない」
レンルのアホ!!!
「ちょっとガンシ!! どどめってー」
『爆発まであと1分』
「落ち着けヌミ! まだ1分もある!!」
「で、どどめって?!!」
「知らん」
ガンシのバカッ!
「それより、お前コードまで手届くンか?!」
そういえばそうだった。
私は腕を限界まで真っ直ぐにのばし、なんとかディスプレイまで届かせたケド
「届かない!!」
コードまで届かない!
「左手に持ち替えてみればー?!」
「バカ言わないでよ、私が落ちる!!」
左手と右足でカラダを支えているのに、今手を離すとー
『爆発まであと30秒』
……ココまでなの? 諦めて死ぬ? ガンシとレンルを巻きこんで?
課長ー…お父さんの願いを叶えるために、私の大事な同僚を、いつもいつも危険な目にあわせて。あげくの果てに死なせるなんて……。
ココで死ぬわけにはいかない、絶対イヤだ!!
『爆発まであと20秒』
「ガンシ!! レンル!!」
「あぁ?!」
「なに?!」
左に並ぶコード。
赤。緑。黄。黒。茶。青。黒。
「私をうまくキャッチできたら、今度紅龍の水晶餃子おごってあげる」
『爆発まであと10秒』
『9』
「OK」
ガンシが言った。
『8』
「了解」
レンルが笑う。
『7』
左手を鉄格子から離して、右手に持っていたコード切りハサミを左手に持ち替える。
『6』
右足で足場を強く蹴り上げ、私のカラダは一瞬、チカラのない蝶のように浮いた。
『5』
届け。
腕をのばす。届け……届け…!
『4』
届け!!!!
パチン。
『さ………ブッ』
ドサッという音と共に、私は二人を見事なくらい下敷きにして着地した。
「ったたたた……」
「ヌミ……こりゃぁ点心もおごってもらわなぁ割にあわねぇぜ」
「あははは……じゃぁボクは杏仁豆腐で」
ガンシ、レンル。
私は起き上がって、天井を見た。
「もちろん、チャーシューメンセットでね」
ディスプレイは003で止まっていた。