■ うさぎさんと図書館に行く ■

 いつもの通り、講堂に響き渡る大声でうさぎさんに拉致された僕は、ひきずられるようにして記念図書館に向かった。
 電車で二駅乗り継いでから歩くこと五分。外見は近代的、というのではなく、真四角の無骨なコンクリート。中に入ると、天井につくほどの無機質な鉄棚に本がずらりと並べられている。
 狭い本だけの空間。
 うさぎさんはしきりにハイリ先生をさがして、どこかへ行ってしまった。
 もうこのまま帰ってこなければいいのにと思う。
 すると、僕の方がさきにハイリ先生を見つけてしまった。
 というより、先生のほうが二階からおりてきた、といった方が正しい。
 初老の、細長い、べっこうの眼鏡をかけた赤ベストの男性は、僕を見つけると嬉しそうに寄ってきた。
「ようこそ、森君」
「こんにちは先生、おじゃましています」
「はて、今日はどちらかと一緒じゃないかね、アリスかー…」
「あ、きょうはうさぎさんと……」
 あたりを見渡しても、あの騒がしい大男はいない。
 ハイリ先生は、ではこれを渡してくれと紙を一枚。
 それにはこう書かれていた。
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 *とってうれしい葉は1もんめ*
 *
 ハイリ *早う
 でなければ ハニカ*
 ハイ*に *早う
 缶*ハ 葉あり
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 しばらくぼんやり紙を見つめていると、いきなり真後ろから
「なんだと!」
「うわっ!! ……うさぎさん、びっくりさせないで」
 ハイリ先生はもういなくなっている。
「はっは、すまないね森君。それよりこの手紙は本当かい? 嬉しいね! すぐ行こう!!」
「ちょっ……ちょっと待ってようさぎさん!」
 僕はすんでのところで踏みとどまった。
 この手紙がうれしい?
 意味が分からない。
 うさぎさんはしばらく思案したあとで、では森君、この手紙を読んでみたまえ、と上から目線。
「とってうれしい〜は、花いちもんめのパロディ。*はとられたから埋めて、この詩は、ハイリお早う。でなければ、はにかみ。ハイリにお早う。缶には葉アリ」
「詩人だね森君……っ」
 腕をわなわなさせていたうさぎさんは、とうとう堪えきれないといった風に大声で笑い始めた。
 記念図書館には僕ら以外誰もいないようで(ここの図書館はいつもそうだ)それだけが救いだ。
 この後僕は、二階でハイリ先生にお茶と羊羹をご馳走になった。