■ 宿星 ■

■ 1 ロ・ミノミコ ■

 マサヘイレ・ロ・イレンセの息子・ミノミコが産まれた時、白天宮に住まう星師・コアラリエのお告げを持った兵士がロ・イレンセの家を訪ねた。
 兵士が携えてきた書簡には「貴殿の息子が十五を数えたならば、星師の助手として白天宮へ迎え入れたい。その際、貴殿には相応の礼をさせていただこう」と記されていた。
 ロ・イレンセは妻と相談のうえこの要求を承諾し、彼の息子は今年の夏で、十五になった。
 白天宮からの使者が村を訪れたのは、ミノミコが誕生日を迎えた次の日であった。明け方、遠くから鐘の音が響いたかと思うと、その音は徐々に大きく近くなり、日が昇った頃には、白天宮の星旗を掲げた兵士たの行列が、村の道をすっかり埋め尽くしてしまった。
 使者は扉を三回叩き、土壁の家の中に頭を下げて入る。部屋の中央には赤褐色の布が敷かれ、薄暗い中でも細やかな刺繍がみてとれた。布の上には儀式用の剣が置かれている。その奥に、シジト族の民族衣装に身を包んだマサヘイレ・ロ・ミノミコが座っていた。朱と金が混じった伝統的な三角文様のポンチョの隙間から、首に巻かれた幾重もの首飾りがのぞき、耳穴に通された緑青色のリングがカラン、と、音を立てた。
 うつむいていたミノミコが、ゆっくりと顔をあげる――。
 使者はその少年の美しさに息をのんだ。
 帽子から垂れる三角の刺繍布の左右、長い睫毛に彩られた翡翠の目、スラリとのびた高い鼻、その下に置かれた、摘みたての薔薇のような唇。全て、白天宮に入るに相応しいものであった。
 と。
 使者とミノミコの間に入ってきたのは、父親のロ・イレンセである。手をすり合わせながら、ミノミコを差し出すかわりに受ける予定の「相応の礼」を要求する父親に、使者は神聖な気持ちを疎外された気がした。
 ひとつ咳をし、気を取り直して白天宮の通達を読みあげる。全文読み終わると家の前に輿が到着した。使者はミノミコを促す。少年が中に入ると扉を閉めて閂をかけた。
 兵が牽いてきた品々をマサヘイレ夫婦に納め、使者の列は、その荷物を軽くして白天宮へと戻っていった。

     ☆

 この地、この天、この地に住まう人々の全てを決定するのは星である。
 一帯を治める王は支配の星を胸に宿し、兵士はそれぞれ戦いの星を胸に宿している。
 それらの星を読む王専属の星師・コアラリエの助言のもとに建てられた白天宮は、この地を遠くまで見下ろす事が出来る山の上に位置していた。木々の緑に映える、白と銀で彩られた城に使者一行が戻ってきたのは、真夜中のことであった。
 輿から出されたミノミコはひとつ、大きくのびをすると、そのまま上を向いて白天宮の荘厳さにしばし心を奪われた。塔は空へ届かんばかりに伸び、ラデン細工が施された壁面は、ほのかに光を発している。城の上には吸い込まれそうな夜空がどこまでも広がっている……。
「――美しい城だろう?」
 声に振りかえると、細身の男が立っていた。白のトゥニケレ一枚という軽装で、左手にはリボン布を持っている。胸までまっすぐ伸びている銀髪をまとめるものだろう。たれ下がった目じりを細め、男は微笑んだ。綺麗に切りそろえられた前髪を軽くかき上げる。
 気付いた使者が声をあげた。
「エクメイア様!」
「ジバト、御苦労だったね。こんなに急がず、野営すれば良かったのに」
「いえ。あの辺の森には盗賊が出ますので」
「そうはいっても、ね。もう、月が下に降りる時間だよ。誰も起きてない……女中もさ」
 使者は言葉に詰まったが、エクメイアはふっと笑って彼の肩を数回叩いた。
「諸君! 私は王族近衛隊副長・エクメイアだ! 本日は長時間の任務御苦労であった。副長権限で命令する! 荷車と旗は全てここに置き、宿舎に戻りたまえ! 明日は、隊長からの号令があるまで寝てて良し!」
 エクメイアが叫ぶと、行列からはワッと歓声があがり、男たちは宿舎がある城門の右奥へとなだれこむように駆けていった。
 残ったのはミノミコと使者とエクメイアのみである。
「さぁ、」
 エクメイアは、ミノミコの背中をやんわりと押した。
「こっちだ。――おやすみジバト、星の子供は私が案内するよ」
「あっ、しっ、しかしエクメイア様、それは私の仕事……」
「いいんだよ、私は。“私”だからね」
 銀髪の男はミノミコを促し、城の中へと入った。
 少年は、輿から出てからもずっと無言であったが、エクメイアは気にする素振りも見せずにコツコツと半歩先を進んでいく。似たような廊下をいくつも曲がり、階段を上り、また廊下を進み、階段を上り、廊下を曲がり、曲がり、上がり、曲がり、着いたのはふたつの扉の前だった。
「どうぞ」
 エクメイアは右側の扉を開けた。掃除用具入れと間違うほどの小さな部屋。置かれているものはベッドと小さな壺だけである。
 突然。
 ドンッと背中を強く押され、ミノミコは床に倒れ込んだ。男は相変わらずうっすら微笑んでいたが、声は冷たく、降る。
「今夜はここで休んで。出歩かないで。小便は壺にして。大便は我慢して。あと数時間で夜明けだから。すぐに誰かが来る。じゃあね。おやすみ星の子供――ロ・ミノミコ」
 扉が閉まると外側から、ガチャリと鍵をかけられた。
 黒で塗りつぶされた部屋の中で、ミノミコは憤った。このような扱い……! いや、自分は売られたのだ……。少年は闇の中でがっくりと肩を落とし、村での極貧生活を思い出した。次に父親と母親の顔を。それから使者に対するあの、父親の態度を。
『お初にお目にかかります、マサヘイレ・ロ・イレンセと申しますがぁ、あのぅ、早速なんですがねぇ、息子を連れていく前にですねぇ、そのぅ、お約束していた礼品をですねぇ、へへ、えへへへ』
 また、ミノミコは、自分をここに呼んだ星師にも怒りをぶつけた。
 ――アンタのせいだ! アンタの、お告げのせいだ!
 だが白天宮の星師など、会ったこともない。想像上の星師は黒装束に身を包んだ老婆で、腰は曲がっており、かぶっている黒のフードの中からは皺だらけの鷲鼻がのぞいていた。
 老婆の胸倉をつかみ、ガクガクと揺さぶり、頬を叩き、腹を蹴飛ばす妄想をくり広げていると、いつの間にか朝になっていたようだった。
 鍵が開き、扉の向こうの廊下には鎧姿の大きな男と女中が数人立っていた。

■ 2 エクメイア ■

 鎧の男はミノミコを見下ろしながら、王との謁見が行われる旨を伝え、女中は真新しい白の服を恭しく掲げた。ミノミコが着替え終わると、一行は中庭の回廊を過ぎまた角を曲がり進み幾度も曲がり、ついに巨大な扉の前へとたどり着いた。
「入ったら床を見て歩け。床に円形の象嵌が見えたら、立ち止まって跪く。王の御声がかかるまで顔をあげてはならん」
 大男や女中はミノミコ一人を残して全員立ち去った。
 待つこと数分。扉が開いた。言われた通りに歩く。円の模様が見える。跪く。頭上から声が響く。
「顔をあげよ」
 この地一帯を治める王、トゥパイック・イラカ・ユパニスがそこに居た。玉座に座る姿は凛とし、声こそやわらかいが、この部屋全体を圧倒的な力で理解し、支配していた。ミノミコには、それがわかった。
 支配の星のもとに生まれた、王。
 玉座から一段下がった左側に先ほどの大男と村まで来た使者、右側にエクメイアと老婆が立っていた。あれが星師だとミノミコは理解する。黒装束、腰は曲がり、杖をついている。顔はフードで見えないが、ちらりとのぞく鷲鼻。想像通りの姿だった。
「マサヘイレ・ロ・ミノミコ。星の子供よ。遠い所からよく来た。余の側近を紹介しよう。朝お前を起こしたのは、近衛隊の長ネオゲレリア。隣が使者として村まで行った宰相ジルバートン。そちらは私の星師コアラリエ。隣が近衛隊副長エクメイア」
 エクメイアと目が合う。銀の髪を後ろで結わえ、剣を下げた鎧姿の青年は目を細めて、少し、首をかたむけた。
 大男、ネオゲレリアが声を張り上げる。
「世話は私たち四人が行う。お前は城の中を自由に歩けるが、私たち四人のうち、誰かの姿が隣にあることが条件だ。分かったなら手を組み、上に掲げるのだ!」
 跪いたまま手を組み、上に掲げるのは服従のポーズである。ミノミコはしばらくそのまま、両手を掲げ続けた。聞こえるのはコツコツと誰かが歩く音。階段を、降りてくる。
 ふっ、と、組んだ手に誰かの指が置かれた。瞬間。
 ビリッと身体を電気が貫く――、
「――ア!」
 ミノミコはのけぞり、仰向けに倒れそうなところをどうにか右腕で受けた。ドッドッと鳴り響く胸をおさえる。いつの間にかあがった、息を吐き出し、おさえ、視線を、上にー…。
「大丈夫?」
 かがんだエクメイアが手を差し出した。銀の髪がゆれ、影を落とす。
「さぁ、立って。イラカ様に礼をして。歩ける?」
 今のは……。
 考えても仕方がないと思いなおし、ミノミコはエクメイアの手を取った。謁見は終わり、ミノミコはまたあの掃除用具入れのような部屋に押し込められた。

     ☆

 白天宮に来てから二週間が経った頃、ミノミコはこの生活に飽きた。
 売られたというのは理解していたが、何を命令されるわけでもなく、ひがな一日ネオゲレリア隊長かジバトの後ろをついて歩くだけの生活である。城を自由に歩いていい、などというのは建前だ。彼らの仕事は多すぎる。
 ネオゲレリアの場合、日の出前に叩き起こされる。まずは馬の世話。手伝わされる。それから早朝訓練。これは見学のみだ。そして宿舎へ行き兵たちとの賑やかな朝食の後、中庭で訓練。宿舎での昼食後、森で訓練。陽がのぼりきって暑くなったところで水浴び。そして走りながら白天宮へ戻り夕食。その後部屋に戻され、外から鍵をかけられる。
 宰相ジバトの場合、起こされる時間はそう早くはないが、宰相室で朝食を食べた後はひたすらその部屋から出ない。昼食も夕食も、女中が宰相室に持ってくる。たまに歩いても、向かう先は隣の書記室か図書室。図書室で「好きな本を読んでも良い」と気を遣われるがミノミコは文字が読めない。窓から空を眺め続ける。夜になっても仕事に没頭していたジバトはハッと気付き、あわててミノミコを部屋に戻す。
 といった具合だ。星師とエクメイアは姿を現さない。
 少し打ちとけてきた兵士たちに、昼食の席できいてみる事にした。兵士たちの話によると、副隊長の主な仕事は夜間警備で、今この時間も宿舎で寝ているらしい。星師は、星を見るという仕事自体が夜であり、年齢もある。世話したくてもできないんだろうよ、と兵士たちは笑った。
 昼食が終わるとネオゲレリアは、ミノミコを宿舎の一室へと連れて行った。簡素な部屋の中にはベッドが二つ置かれており、一つはもぬけの空、一つにはエクメイアが眠っていた。
「そっちのベッドは俺のだ。使っていい、昼寝しとけ」
 ネオゲレリアの言葉に甘えて眠ることにする。久しぶりの、解放感ある寝室だ。ミノミコはベッドに横になり、大きくのびをした。
 昼寝から覚めると、窓の外は陽が落ち、夕闇色になっていた。エクメイアはまだ眠っている。よく眠れるものだと半ば呆れながらもミノミコは彼の身体を揺すった。
「……んー…、うん? あぁ……君か」
 エクメイアの右手が、そうっとミノミコの頬に触れた。瞬間、少年の全身にまた電気がはしった。ビリビリと続く小さな刺激に耐える。エクメイアはそれに気付いた様子だったが、手を離さずに微笑んだ。
「君は……美しいな…、星みたいな目だ……。インインデルには…、渡さないことにしよう、さて!」
 銀髪の男は勢い良く起き上り、トゥニケレの胸を合わせて腰紐をしばるとミノミコを手招きし、夕飯の席へと向かった。
 今夜は寝ずにエクメイアと夜間警備にあたるのだとミノミコが気付いたときには、辺りはすっかり静まり返っていた。最初に会った時と同様に白のトゥニケレ一枚という軽装の男は、城の入り口から始め、さくさくと城内を歩き回った。
 柱の陰や、草花の裏から、今にも何かが出てきそうだ……とミノミコは感じる。何か、人ではないものが、襲いかかってくるのではないか、と……。そんな心配が現実のものとなったとき、ミノミコは恐怖で声も出なかった。中庭に突如現れた異形のモノは、牙が生えそろった大きな口を開け、二人に吠えかかった。
 ミノミコは悲鳴をあげてエクメイアに抱きついた。とたんに、体中に電気がはしる。どうして、わけがわからない。見上げる、痺れる、エクメイアは笑っている。銀が、影が、かかる、上に、夜が、星が、
「怖がらないで。これは、君だ。君の星が共鳴しているだけだ。でも、こいつはすごい、力が、ははっ! いいね。最高だよ……そぉれッ!!」
 襲いかかる獣を限界まで引きつけて、エクメイアが片手でなぎ払うと異形は吹き飛び、中庭に静寂が戻った。

■ 3 星師コアラリエ ■

「……いっ…、今のは……何だったんですか?」
 ミノミコは地面にぺたんと座りこんだ。心の恐怖と身体の痺れで、立っていられないのだ。
「ギルイティ。救われずに彷徨っている魂。特に獣の魂は、夜を漂ううちに融合して、ああいう風に大きくなる」
「共鳴……って…?」
「君が宿している星だよ、私が見つけた。君は珍しい。共鳴と増強という二つの星が宿っているんだ。悪用されないように、白天宮へ呼んだ」
「呼ん…だ……」
 呼んだ? 呼んだのは、星師コアラリエでは? 星師のお告げがあったからこそ、自分は白天宮へ呼ばれたのでは??
 ミノミコは疑問をぶつけてみたくなった。よろよろと、立ちあがる。
「あのっ、それってー…」
 ――パン、パン、パン、パン。
 中庭に、場違いな拍手が響き渡った。エクメイアとミノミコが立っている場所とは反対側の出入り口だ。姿を現したのは、王。トゥパイック・イラカ・ユパニス。拍手をしながら王は、中庭の中央へと歩を進めた。
「素晴らしいものを見させてもらったよ。星の子供、そしてエクメイア」
 ミノミコは急いで頭を下げる。が、こんな時、どういう返事をすればいいのか分からない。
 自分の無知を恥じるミノミコをよそに、エクメイアは
「勿体ないお言葉です、イラカ様」
 礼をしつつ、トゥニケレの隙間に手を入れた。
「しかし――、何故このような真夜中に城内を歩き回られているのです? 夜はギルイティが出ます、白天宮も例外ではありません。何度危ないとご忠告したことか……。こういう星が多い夜には、インインデルも出ますしね!」
 素早く何かを取り出し、投げつける!
 ナイフは王の腹に命中し、王は、それを両手で抱えるようにしてガクガクと震え、シダの葉が茂る草の上に倒れこんだ。
「――王さま!」
「近づくな!!」
 走りだそうとしたミノミコの腕をエクメイアが掴む。引き寄せ、ミノミコの耳裏にささやく。
「よく見ろ……。アレが、イラカ様に見えるのか?」
 倒れた王は一度ビクンと痙攣すると、次第に、ドロリとした赤い液体に包まれていった。グニグニと蠢く「それ」はもはや王ではなく、ぞろりと形を変えていく。同時に、「それ」の奥底から気が狂ったような笑い声が漏れだした。
「グ、フ、ウゥ、ふ、フフッ、あ、は、ヒャ、アヒャハハハハハ!」
 バサリと、赤いローブをひるがえしたのは若い女性だった。短く切られた漆黒の髪に、燃えるような赤黒い目をギョロつかせ、細長い手足をブルンと振った。
「コアラリエぇ、あぁーぁ、ホント久しぶりだよねぇ。やっぱりバレちゃったぁ? ねーぇー、その子ぉ、アタシも目ぇつけてたんだけど」
「インインデル。相変わらず趣味が悪いな」
 とにかくこの二人は知り合いらしい、とミノミコは検討をつけた。それよりも気になるのは、あの赤い女が、エクメイアをコアラリエと呼んだ事だ。
「星師……コアラリエ?」
「そう。謁見の間に居たのは私の乳母だよ。ダミーをしてもらっている。私の長名は、コアラリエ・アンテ・エクメイア。姓がふたつあるみたいだろう? 意外とバレないんだよ……近衛隊副長、兼、夜間警備員、兼、王の星師。君が産まれた時、私が星を見つけて、私が君をここに、呼んだ。二つの宿星を胸に落とした、美しい星の子供。そしてさっき決めた。私は君をー…」
 エクメイアは後ろから腕をのばし、ミノミコの胸に手をあた。
「インインデルには渡さない」
「――ッア!」
 ビリビリと身体中をかけめぐる、痺れる、胸の奥の芯に、心に宿っている核に、星に、手を触れられている感覚が、痺れ、同調し、共振しはじめている、何に? エクメイアの星に。熱い、痺れる、身体が、甘い鎖に縛られ、動けない、熱い、痺れる、耳に、息が、甘く、
「怖がらないで……私を受け入れて。感覚を開いて、私の星をとなりに感じる、触れて、鳴る、大きく、響く、もっと、大きく!」
「アッ、ウ……ア、ハ、ア! ウ、アアァァ――!!」
「吹き飛べ! インインデル!」
 頭がぐらぐらと闇に落ちる寸前、ミノミコは、あの赤い女が空高く舞い上がり、そのまま巨大な鳥になって立ち去るところを見た。

     ☆

 カリカリという、小さな音で目が覚める。ミノミコが起き上るとそこは宰相室の床で、音は、ジバトが筆記具を動かしている音であった。体を伸ばし無事に動く事を確認すると、敷かれていた布を丸めて隅に置いた。宰相に朝の挨拶をしたが、とっくの昔に午後を過ぎていた。
 夜を思い出しながらインインデルという女性を知っているかと尋ねると、宰相ジバトは露骨に眉をひそめる。
「西の魔女インインデル……、恐ろしい、破壊の星を宿した者だ。会った事はないが……西の地はインインデルの所業で果てたという噂だ。まぁ、関わる事はないだろう。……誰に聞いた?」
 エクメイアだと答えると、ジバトはため息をついた。表情が雄弁に語っている。まったく余計な事を吹きこんだものだ、と。
 そこからの一週間はいたって平和に過ぎた。
 ネオゲレリアの訓練は厳しいが、少しずつ参加し、ミノミコは初めて一人で馬に乗る事ができた。また、ジバトの部下による読み書きの指導も始まった。まだ書ける単語は少ないが、絵本であればつっかえながらも読めるまでになった。
 充実しはじめた夜。ミノミコは再び、エクメイアと夜間警備のため城の入り口に立っていた。緊張しつつ、銀髪の男に問う。
「……あの、もし、またギルイティとかあの人が出たら……」
「私と共鳴してもらう。才能を開花させて、コントロールを覚えてもらう。――この間の共鳴は、気絶するほど気持ち良かった? 私はね、」
 エクメイアはミノミコを見下ろし、ニヤリと笑った。
「すごく良かった」
「へっ?! ……あ、え? あ、それは、あの、ぼっ、ぼくも……、って、じゃない、違う違う! ッ変態!!」
「さぁ、行こう」
 やはり軽装で、さくさくと歩きはじめるエクメイアを、ミノミコはかけ足で追った。